生産技術の篠原です。
電子部品メーカーの生産技術部に18年いて、いまは中小の製造業さんの塗布・接着工程を診に行く仕事をしています。
二液性の材料を扱っている現場で、いちばん相談が多いのがこれです。
「設定は変えていないのに、硬化が安定しない」。
装置のパラメータを疑って、ノズルを替えて、それでも直らない。
そういうとき、たいてい原因は混合比のずれにあります。
今回はその「ずれる理由」を、現場で確認できるレベルまで落として書きます。
混合比のずれは、その場では見えない
厄介なのは、混合比がずれても吐出の瞬間には何も起きないことです。
主剤と硬化剤の色が近ければ、目視で混ざり具合を判断することはまずできません。
流量で追えばいいと思われるかもしれませんが、高粘度の材料は流量計での計測自体が難しく、現実的な監視手段になりにくいのが実情です。
つまり、異常が表に出るのは硬化した後です。
ベタつき、強度不足、クラック、外観のムラ。
不良として顕在化したときには、その比率で流し続けたロットが後工程まで進んでいます。
犯人はたいてい「粘度」です
では、なぜずれるのか。
私が現場で当たった限り、原因の多くは粘度に集約されます。
主剤と硬化剤は、そもそも粘度が違います。
そこに次の変動が乗ると、二液の流れ方のバランスが崩れます。
- 朝と昼で工場の室温が変わり、材料の粘度が変わる
- 材料のロットが変わり、同じ品番でも流動性が違う
- 配管やタンクにエアが噛み、見かけの吐出量が変わる
- ポンプや逆止弁が摩耗し、片側だけ吐出量が落ちる
- ミキサ内部に硬化残渣が溜まり、混ざりきらなくなる
このうち上の3つは、装置を触っていなくても勝手に起きます。
「設定は変えていないのに不安定」の正体は、だいたいここです。
比率が崩れると、化学的に何が起きているか
もうひとつ、押さえておきたい理屈があります。
エポキシ樹脂は付加重合で硬化します。
樹脂側のエポキシ基と硬化剤側の官能基が、決まった数の比で反応してはじめて網目構造ができる仕組みです。
配合比は「濃さ」の調整ではなく、反応させる官能基の数合わせだと考えてください。
だから比率が崩れると、反応に使われなかった官能基や未架橋の成分が残ります。
これがベタつきや物性低下として出てきます。
硬化剤の種類ごとの設計思想については、日本接着学会誌の総説「エポキシ樹脂硬化剤について」がオープンアクセスで読めるので、材料選定を担当される方は一度目を通しておいて損はありません。
なお、ずれは硬化剤が少ない方向だけでなく、多い方向でも問題になります。
硬化剤が過多になると反応熱が逃げきらず、気泡や白濁を招くことがあります。
結果を数値で押さえたいときは、接着強度で評価するのが一般的です。
引張せん断はJIS K 6850、剥離はJIS K 6854というように試験方法が規格化されています。
規格の一覧は日本溶接協会の接合・溶接技術Q&Aにまとまっています。
運用でしのぐか、計量方式で潰すか
原因が粘度変動にあるなら、対策は2通りです。
ひとつは運用でしのぐ方法です。
材料を加温して温度を揃える、エア抜き手順を標準化する、ミキサとポンプ部品を定期交換する。
効果はありますが、人と時間を使い続けることになります。
もうひとつは、粘度が変わっても計量値がずれない方式の装置を使う方法です。
容積計量方式のポンプは、一定の容積を押し出して計量するため、原理的に液の粘度変化の影響を受けにくいという特徴があります。
1970年からディスペンサを手がけている株式会社ナカリキッドコントロールも、この容積計量方式を各機種の共通の軸に据えています。
比率の設定範囲や対応粘度は機種ごとにかなり幅があるので、詳しくは2液型ディスペンサーの塗布装置ラインナップで自社の材料条件と突き合わせてみてください。
導入を検討する段階では、次の4点を装置メーカーに確認しておくと選定を外しにくくなります。
- 比率をどこまで可変できるか(固定式か、可変式か)
- 実際に使う材料の粘度が対応範囲に入っているか
- ミキサの洗浄が必要な方式か、使い捨て方式か
- ポットライフの短い材料に対応できるか
まとめ
二液混合で混合比がずれる理由を整理すると、こうなります。
- ずれは硬化後まで表に出ないため、発見が遅れて不良が量産される
- 原因の多くは温度とロットによる粘度変動、そしてエア噛みとポンプ摩耗
- 配合比は官能基の数合わせなので、崩れれば必ず物性に響く
- 運用管理で抑えるか、粘度の影響を受けにくい計量方式に変えるか
まずは自社の現場で、材料温度がどれだけ振れているかを1日測ってみてください。
朝と昼で数度違うようなら、それが不安定の説明になっている可能性は十分にあります。